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東京高等裁判所 昭和51年(ラ)660号 決定 1977年3月31日

抗告人 株式会社淀屋

主文

原決定を取消す。

浦和地方裁判所昭和五〇年(ケ)第五号宅地建物競売事件につき新高産業株式会社の競買申出にかかる別紙目録記載不動産に対する競落は、これを許さない。

理由

一  抗告人は、「浦和地方裁判所が同庁昭和五〇年(ケ)第五号不動産競売事件につき、昭和五一年七月二三日言渡した競落許可決定を取消して、さらに相当な裁判を求める。」旨申立て、その抗告理由の要旨は、次のとおりである。

(一)  本件競売にかゝる別紙物件目録記載の不動産(以下、本件土地建物または(一)ないし(五)物件という)のうち(一)ないし(四)の物件の評価鑑定は、鑑定の基礎たる事項について重大な過誤があり、単に評価が廉価であるというにとどまらず、鑑定の体をなしておらず、したがつて最低競売価額決定の資料となすべからざるものであるのに、原裁判所はかゝる評価に基づいて最低競売価額を定めて公告をしたうえ、競落許可の決定をしたが、これは法律上の売却条件に牴触したものであつて、違法である。

(二)  本件では競売法二二条五項に定める賃貸借の取調べが完了しておらず、したがつて結局賃貸借の取調べがなされないで競売手続が行なわれたと言うべきで、その手続に基づく本件競落許可決定は違法である。

(三)  本件競売期日の公告には、賃貸借関係取調報告書きをそのまゝコピーして添付するという、ずざんなことが行なわれ、同報告書の内容の真偽もさることながら、これでは到底競売物件の賃貸借関係を公告したものとは言えない。

二  職権をもつて案ずるに、記録によれば、本件競売にかゝる物件のうち目録(一)(三)(四)の各物件は、本件競売申立のあつた当時、いずれも債務者ではない第三者たる抗告人の所有に属していたこと、また(一)ないし(五)の各物件とも競売申立人よりも先順位、後順位の各抵当権者がそれぞれ存在していることが明らかであるから、競売裁判所としては、本件物件の現況から各物件を一括競売に付したことが最も適切であつたとしても、そのように一括競売をする場合であつても、各物件につき最先順位抵当権者に対抗できる賃借権の有無を見きわめ、それによつて各物件につき減価を相当とすべき法律的事由の存否を判定したうえ、各物件につき各別に最低競売価額を定め、これを公告し、競買申出人をして各物件毎に競買価額の内訳を明らかにした申出をさせるべきでなければならない。しかるに、本件競売手続においては、最低競売価額として単に五箇の物件の総額を公告し、これに基づき物件毎の競買価額の明らかでない競買申出を許し、その最高価競買人に競落を許可しているのであつて、右は競売法の準用する民事訴訟法六五八条、六七二条、六七四条に反するものであり、該競落許可決定は取消を免れない。

よつて、本件抗告は結局理由あることに帰し、主文のとおり決定する。

(裁判官 菅野啓蔵 舘忠彦 安井章)

(別紙) 物件目録<省略>

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